
「対話と診察」に専念できる医療現場へ
年間5,472時間の創出を実証した医療DX。
ユニリタと共創した生成AI利活用プラットフォーム
SecuAiGent 導入事例
地方独立行政法人 長野市民病院 様

デジタル技術を積極活用し、業務効率化と質の高い医療提供を目指す長野市民病院。同院は、医師や看護師が患者との「対話と診察」に専念できる環境づくり(時間の創出)を目指し、臨床現場における書類作成業務の負担軽減に向けて生成AIの活用を構想しました。ユニリタとの共同による基盤構築と試行錯誤の末、医療機関向け生成AI利活用プラットフォーム「SecuAiGent」が誕生しました。今後、本ソリューションの展開により、全国の病院が直面する人手不足や経営改善などの共通課題解決が期待されます。
課題
- 退院サマリーなどの多種多様な書類作成業務が、医師や看護師の長時間労働の要因に
- 要配慮個人情報を扱う医療機関として、セキュリティを担保した生成AI活用が求められる
- ITリテラシーに依存せず、利便性の高い活用基盤で生成AI活用を院内に浸透させたい
解決策
- ユニリタと既存データ活用基盤を拡張し、生成AIによる業務効率化を目指す
- 電子カルテデータをAIに再学習させない、セキュアな抽出・加工・要約の仕組みを構築
- 啓蒙活動も行い広く生成AI活用を浸透させ、業務の効率化と質の向上を目指す
導入メリット
医療現場で活用可能な生成AIプラットフォームをユニリタとの共創により実現。医療事務作業の効率化と現場定着の両面で効果を確認できたことで、全国の病院が抱える共通課題を解決するソリューション「SecuAiGent」としての展開に貢献
課題:生成AIの可能性を追求する試行錯誤、
医療現場の壁を突破する「安全な活用モデル」の模索
地方独立行政法人 長野市民病院は、「人間味あふれる医療」や「高度で良質、安全な医療」の提供を理念に掲げる、長野県北信地域の高度急性期医療を担う地域中核病院です。400床の病床を有し、高度な専門性と最新の設備を備えた同院は、がん診療、救急医療、脳・心臓・血管診療など、幅広い領域で質の高い医療を提供し続けています。こうした手厚く質の高い医療を持続的に提供するための、IT技術を積極的に取り入れた病院経営(業務効率化)にも定評があり、2023年2月には院内のDX推進を牽引する専門組織「チームDIGITAL」を発足。現場のニーズを汲み取り、医師や看護師が医療行為に集中できる環境づくりに全力を挙げています。
そんな同院における課題は、医師の働き方改革に直結する事務作業の負担軽減でした。急性期病院として、患者の入院から退院に至るまでの診療記録を元にした退院サマリー、他院への紹介状といった膨大な書類作成が求められています。これらは定型業務でありながら、患者一人ひとりの症例や経過が異なるため、医師が退院サマリーを作成するのに患者1人あたり10分以上を費やすことも珍しくありません。さらに、診療後の夕方以降にこれらの作業をせざるを得ない場合も多く、長時間労働の要因となっていました。「病院の経営環境が厳しさを増す中で、事務作業の効率化は待ったなしの状況でした。生成AIが登場した際、その要約能力の高さに注目し、まずは私自身がChatGPTなどの汎用ツールを触り、個人の範囲で試行錯誤を始めました」と、同院の副理事長 上席副院長でチームDIGITALのリーダーを務める草野義和氏は語ります。

地方独立行政法人 長野市民病院
副理事長 上席副院長 診療部長
草野 義和 氏
草野氏は自ら生成AIを活用、カルテ情報の要約などに確かな手応えを感じていましたが、実務への本格導入には、医療機関ならではの高い壁が存在しました。第1の壁は「セキュリティ」。患者の要配慮個人情報をクラウド上のAIにそのまま預けることのリスクは、医療機関として決して容認できるものではありません。そして第2の壁が、多忙を極める現場での「実用性」でした。「生成AIの有用性は明らかでしたが、セキュリティの不安を払拭し、かつ誰もが使いやすいものでなければ、現場には浸透しないと考えていました」(草野氏)。
そんな折、2011年から同院のデータ活用基盤を支えてきたユニリタとの定期協議の中で、一つの光が差し込みます。既存の「Waha! Transformer」を拡張し、電子カルテからセキュアにデータを抽出、生成AIと連携させる仕組みの提案。それが、後に「SecuAiGent」という革新的なプラットフォームへと結実することとなる、共創プロジェクトの幕開けでした。
解決策:既存のデータ活用基盤と生成AIを高度に融合し、
現場の「使い勝手」を追求した医療特化型プラットフォームを構築
同院が、生成AI活用の「セキュリティ」と「現場の利便性」の両立を目指し導き出した答えは、パッケージ製品の導入ではなく、15年来のパートナーであるユニリタとともに、既存のIT資産を拡張・深化させる「共創」でした。同院には2011年以来、ユニリタのETLツール「Waha! Transformer」を用いたデータ活用基盤が確立されており、院内の電子カルテから抽出された膨大なデータが、すでに「使える形」で蓄積されていました。この強みを活かし、生成AIを単なるチャットツールとしてではなく、電子カルテと地続きの「業務システム」へ拡張するプロジェクトが動き出したのです。

地方独立行政法人 長野市民病院
情報システム室 システムマネージャー
博士(診療情報管理学) 高野 与志哉 氏
「ユニリタとの打ち合わせで、当院が利用している『Waha! Transformer』の生成AIオプションを開発中と知り、これが突破口になると確信しました。汎用AIをそのまま使うのではなく、当院のデータ構造を熟知しているユニリタの手で、安全な橋渡し(ゲートウェイ)を作ってもらう。それが最善策だと考えました」と、情報システム室 システムマネージャーの高野与志哉氏は説明します。
このプロジェクトで構築されたプラットフォームは、後に「SecuAiGent」へと結実する、3つの画期的な機能を備えています。第1に、特許技術を用いた「情報の安全性」。入力された個人情報はAIの学習に利用されず、クラウド側にログも残さない徹底したセキュリティ設計。医療機関としてのガバナンスを確保しています。第2に、RAG(検索拡張生成)技術とETLの高度な連携です。患者IDに基づき、「Waha! Transformer」が「今回の入院分だけ」など、正確なデータを電子カルテから抽出、AIに受け渡します。これにより、AIが事実に基づかない回答を行う「ハルシネーション」を構造的に防ぎ 、実務に求められる高い信頼性を実現しました。
そして第3の、かつ最大のこだわりが「操作性」です。多忙な医師や看護師が敬遠する「IDの再入力」や「情報のコピー&ペースト」を排除するため、電子カルテ画面から1クリックで「SecuAiGent」が起動、必要な情報が自動でセットされるシームレスなUI/UXを開発しました。「医療従事者にとって、数秒の手間が利用のハードルになります。電子カルテの中で完結して動く仕組みこそが、普及の絶対条件でした」(草野氏)。
この徹底した現場ニーズを一つひとつ技術で解決していくプロセスこそが、個別のカスタマイズを必要としない、全国の病院が抱える共通課題を打破する汎用プラットフォーム「SecuAiGent」の誕生へと直結しました。
導入効果:エバンジェリストによる草の根の啓蒙活動が、現場の「温度差」を「確信」へと変えた
同院ではこの機会に組織を「チームDIGITAL 2.0」に刷新。リーダーである草野氏、アクセラレータとしての高野氏と共に、エバンジェリストとして血液内科医師の住昌彦氏が、本プロジェクトを推進しました。
2025年4月、「SecuAiGent」の基盤が整い、まずは「退院サマリー」での利用が開始されました。しかし、稼働当初の利用は一部の医師に留まります。「どんなに優れたツールを作っても、現場に浸透しなければ意味がありません。医療現場にはITリテラシーの格差が確実に存在し、最初は『何ができて、どう便利になるのか』が、伝わっていない状況でした」と住氏は振り返ります。

地方独立行政法人 長野市民病院
血液内科医師 医学博士
住 昌彦 氏
この状況を打開するため、住氏らチームDIGITAL2.0は単なるツール説明ではなく、現場の医師や看護師の「痛み」に寄り添い、具体的な成功体験を一つひとつ積み上げる草の根の活動を展開しました。具体的な取り組みとして、まずは「生成AIの使い方を体感する会」を開催。AIに触れる心理的ハードルを下げることから始め、診療領域での活用アイデアを共有する会を、数回にわたって実施。さらに、院内から広く「デジタル・アンバサダー」を募り、DXに興味を持つ職員をチームDIGITAL2.0のパートナーに迎える活動を展開。その結果、当初10名ほどだったメンバーは、現在約50名にまで拡大しています。
こうした地道な活動が実を結び、潮目が一気に変わったのが2025年9月。きっかけは、チーム医療における「排尿ケア情報収集」の改善です。週に一度、対象患者の経過を記録から拾い上げるこの作業には、患者1人あたり約30分を要していましたが、「SecuAiGent」で専用プロンプトを提供したことで、わずか3分へと短縮。この劇的な効率化が、現場の看護師たちに『自分たちの業務もAIで楽になる』という確信を与え、病院全体での利用率が、急速に伸び始めました。
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医師の業務においても、その成果は圧倒的です。過去5年分の診療録を一括で要約、退院サマリーのドラフトを作成する時間は、1人あたり平均10分から25秒へと短縮。これまで夕方の多忙な時間帯に医師を縛り付けていた事務作業が、大幅に軽減されました。「すべてをAIに任せるのではなく、AIが作ったドラフトを人が確認し、仕上げる。この運用が定着したことで、正確性を担保しつつ、大きな効率化が実現しました」(草野氏)。
現在、活用の幅はさらに広がりを見せています。化学療法を受ける患者さんへのケア情報の収集、インフォームドコンセントの記録作成、薬剤師による患者向け説明パンフレットの作成支援など、それぞれの現場に即した形で「SecuAiGent」が活用されています。このように多種多様な局面で生成AIが使いこなされる現状は、同院のDXが特定の職種に閉じず、全院的な文化として根付きつつあることを示しています。画像をクリックすると大きな画像で確認いただけます。
こうした成果を積み上げ、同院では期初に掲げた「年間7,800時間の業務創出」という目標に向け、着実な歩みを進めています。実際に、2025年4月から2026年1月にかけて生成AIを積極的に活用した職員111名を対象に行った調査では、年間5,472時間(月間約456時間)に相当する業務効率化効果が実証されました。入院患者数が前年比5%増加しているにもかかわらず、全体の時間外労働時間は減少傾向にあるなど、経営指標としてもその効果が明確に現れ始めています。

今後の展望:属人性を排した「医療DXプラットフォーム」として、
全国の病院が抱える共通課題の打破へ
同院がユニリタとの共創によって手にした成果は、単なる業務効率化に留まりません。現在、同院が挑んでいるのは、「医療の質」のさらなる向上。その一例が、インフォームドコンセント(病状説明)の高度化です。医師が患者へ行った説明内容を音声から文字起こしし、さらにパーソナライズされた図解スライドを生成して患者に手渡す仕組みなど、「SecuAiGent」のポテンシャルを患者満足度へと繋げる、新たなフェーズに入っています。
「効率化ばかりが注目されますが、業務品質を高めることも重要です。『SecuAiGent』を使えば、検査データに基づいた画像付きの分かりやすい資料を即座に作ることができ、患者さんの理解を深める助けになります。この可能性は無限大です」と住氏は、期待を込めます。
また、本プロジェクトの最大の意義は、高度な専門性が求められる現場で培われた「知」が、汎用製品である「SecuAiGent」として結実したことにあります。多くの医療機関がDXの必要性を感じながらも、ITリテラシーの壁や属人性に阻まれている現状において、本サービスが果たす役割は極めて大きいと言えます。「当院が成功したのは、意欲的なメンバーとユニリタという良きパートナーに恵まれたという、幸運があったからです。しかし、この成功を当院だけに閉じておくべきではありません」と草野氏は強調します。
草野氏がユニリタに寄せる期待は、「SecuAiGent」が全国の病院において、あたかも電子カルテの一部であるかのように「当たり前に」使われるインフラへと成長することです。「電子カルテとシームレスに繋がることさえできれば、一気に日本の医療は変わるでしょう。これまで一部の特定用途に高額な費用をかけていた現状を打破し、どの病院でも、どんな職種でも安全に生成AIを使いこなせる環境を、ユニリタに実現してほしい」(草野氏)。
長野市民病院とユニリタの共創から誕生した「SecuAiGent」。徹底した現場視点から生まれたこのソリューションは、日本の医療現場が抱える課題を解消し、医療の未来を切り拓く大きな一歩を踏み出しています。
※記事内の部署・役職は取材時点のものです。

法人名称: 地方独立行政法人長野市民病院
病院名称: 長野市民病院
病院開設日: 1995年6月1日(独法による開設日 2016年4月1日)
所在地: 長野市大字富竹1333番地1
病院種別・施設基準等:地域医療支援病院、地域災害拠点病院、がんゲノム医療連携病院、地域がん診療連携拠点病院
© UNIRITA Inc. 2025










